誠光社

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しのげ!退屈くん

切り裂き女子ジャックちゃん

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しのげ!退屈くん

文:安田謙一画:辻井タカヒロ

 昨シーズン、阪神タイガースの内野手、渡邉諒がバッターボックスに入ったとき、ラジオのナイター中継でアナウンサーが「彼は直球破壊王子と呼ばれています」
 と言った。

 まあ、ストレートに強い打者であることは伝わってくる。それにしても妙に語呂が悪い。ちょっきゅうはかいおうじ。なんだろう、この聞き心地の悪さは。

 移籍前の日本ハムファイターズ在籍時についた愛称だという。一目見て、「自称」ではなく「人呼んで」であることは伝わってくる。にしても、王子が微妙に古い。王子は、ハンカチ王子世代に限定してほしい。

 直球破壊王子と比べると、埼玉西武ライオンズ、中村剛也の「おかわりくん」はすっきりしている。彼の顔をみると反射的に「おかわりくん!」と口に出したくなるが、果たして、渡邉諒の顔を見て「直球破壊王子!」と声をかける人がいるだろうか。

 という話の流れで、頂き女子りりちゃん。

 男性の恋愛感情を利用し、3人から1億5500万円以上をだまし取った罪などに問われている方の愛称である。詐欺マニュアルを販売していたことでも話題を呼んだ。

 「頂き女子りりちゃん」が凄いのは、悪事(と言っちゃいますが)を表しているネーミングであることと同時に、これが自称である、ということだろう。

 19世紀末のロンドンを震撼させた連続殺人犯、ジャック・ザ・リッパー=「切り裂きジャック」という名前は、犯人を名乗る人物が書いた手紙に書かれていた、という説もあり、また、新聞記者が捏造したものという説もある。

 頂き女子りりちゃんにしても、切り裂きジャックにしても、自称だとすると、自分で言っちゃうかね、と呆れちゃう。「おでんツンツン男」は自称ではなかった、よね。

 初期の千鳥の漫才のネタに出てきた、窃盗事件が起こった現場に3人いた容疑者の中の「どろぼうだどろお」を思い出した。
 漢字で書けば、泥棒田泥男となるのだろうか。
 ある意味、マディ・ウォーターズみたいである。マディ・ウォーターズというのもたいがいな名前だけれど、日本語で「泥水」と書くと、俳号のようにも見えてくる。

 この原稿は、「名は体を表す」というテーマで書きはじめたのだが、なんか道が外れてきたようにも感じている。
 直球破壊王子風にいえば、私は漫筆脱線王子である。

 この「漫筆」という肩書は、この連載の相棒、辻井タカヒロさんが命名してくれたものだ。そこに私はロックをつけて、ロック漫筆として、自称している。このネーミングについて説明するとき、「堺すすむのフラメンコ漫談、みたいな」と言ってきたけど、正確にいえば、あれは「ギター漫談、堺すすむのなんでかフラメンコ」である。

 60歳になったとき、ロック漫筆のロックを取って、漫筆家、と名乗ろうかとも考えたが、このままにした。
 逆に、ロックと名乗る手もあるな。
 ザ・ロック。
 ロックさま。
 いっそ、ドゥエイン・ジョンソン。
 ……脱線漫筆居士。
 おいおい、戒名になっちゃったよ。