わたしが・書いた・ラブソング
しのげ!退屈くん
文:安田謙一画:辻井タカヒロ
ともだちのKENGOくんから、シングル盤にサインを求められた。
レコードはYossy Little Noise Weaverの「恋に忙しくて」の7インチ・シングル。

この曲の歌詞を私が書いている。ただし、40年近く前の、まだ22、3歳の頃に書いた詞だ。
1985年ごろ京都に住んでいて、自分が歌うバンドをはじめた。タマス&ポチスという名前で、この「恋に忙しくて」ははじめて作ったオリジナル曲。私が書いた歌詞にギターの磯田収くんがメロディをつけた。
最初は、バディ・ホリーの「ペギー・スー」みたいなアレンジだった。当時好きだったマーシャル・クレンショウとか、ニック・ロウのムード。それからイントロにパワー・コードのギター・リフをつけるなど、その時々の気分でマイナー・チェンジしながら、ずっとレパートリーから外すことはなかった。
タマス&ポチスを解散して、ゲンシシンボスを結成(1曲で解散)、続けてTHE 神SUNというバンドでも、ミドル・テンポのソウル・ポップ風な編曲でこの曲を演奏した。このときのキーボード奏者が現在のYossy Little Noise WeaverのYossyで、解散後もずっと、この曲のことを覚えていてくれた。
数年前に彼女から、この曲をカヴァーしたいというメールを受け取った。とても嬉しかったけれど、少し、申し訳ないような気持ちにもなった。この感情はなかなかうまく説明できない。
30年ほど歌われることもなく、一度も音盤化されることがなかったこの曲が、2025年にYossy Little Noise Weaverのアルバムに収録され、曲名がアルバム・タイトルに冠された。さらに7インチ・シングルまで発売された。海の向こうの、これに似た話をいくつも知っているけれど、まさか自分の身に起こるとは思わなかった。

KENGOくんにはサビの歌詞を誉められた。まあ、パクリなんで、と照れ笑いした。「一目惚れって信じるかい?」というフレーズは、そのままビートルズ「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」の一節の訳で、慣れ親しんだ片岡義男訳「ビートルズ詩集」からの引用だ。ついでに言えば、「雨の降る日にも/僕の心には/太陽があるんだ」はテンプテーションズの「マイ・ガール」だし、「ひとみつむっても見える光」のイメージ元はトッド・ラングレンの「アイ・ソウ・ザ・ライト」だ。こういう引用の魅力を教えてくれたのが、京都で少し前に活動していたTHE MARIAESというバンドの「BOY」という大好きだった曲で、「星よりひそかに/雨よりやさしく」と、「いつでも夢を」の歌詞を大胆に取り込んでいた。ちなみに、この「BOY」のカヴァーも初期のタマス&ポチスのレパートリーだった。
というような話をあの時にKENGOくんにしたら、長くて鬱陶しがられても困るので、照れ笑いで済ませた。時間があったら、これを読んでください。
と、少し斜めに「恋に忙しくて」を振り返ってみたけれど、Yossy Little Noise Weaverの歌を聴いていると、この曲を作ったときの、自分の「本気」が蘇ってきた。
曲を作ってよかったとつくづく思う。

