
ありふれた話でしょ
しのげ!退屈くん
文:安田謙一画:辻井タカヒロ
家で酒を呑むのは、寝る1時間前から。毎晩というわけではないが、ウィスキーを飲んでいる。
バー・ムーンライトで買ったショットグラスにウィスキーを半分ほど、ストレートで。これにコップ一杯の牛乳をチェイサーにして呑む。
テーブルの上に琥珀色と白とを並べて、ミルク&アルコール、と悦に入る。

英国のロック・バンド、ドクター・フィールグッドが79年に出した「ミルク・アンド・アルコール」は彼ら唯一のトップ・テン・ヒット(英9位)。チンピラが肩で風切って街をブラつくようなブギー・ロック。歌い出しの「ホワイト・ボーイ/イン・タウン/ビッグ・ブラック/ブルー・サウンド」の節回しが、芸人SAKURAIのネタ「お腹/背中/首/両足」と同じだったりする。ちなみにSAKURAIは「♪僕がお風呂で身体を洗う順番〜」とオトしている。
「ミルク・アンド・アルコール」はニック・ロウとジッピー・メイヨの共作。米国で観たジョン・リー・フッカーのライヴに失望したニック・ロウが、会場で「ミルク・アンド・アルコール」をヤケ呑みした、という実体験から生れた歌詞。ジョン・リー・フッカーの「ミルク、クリーム・アンド・アルコール」という曲名をモジっている。
……ということを、さっきウィキペディアで知った。ついでにいえば、この「ミルク・アンド・アルコール」がカルアミルクのことだというのも知らなかった。カルアミルクを歌にしたのは岡村靖幸だけじゃなかったんだ。
ひとりで、外で呑むことはほとんど無くなった。たまには、加瀬亮みたいに、井川遥がカウンターに立つ店に行って、酒の力を借りて、隣で呑んでいる田中圭がハッと息をのむようなことを言ってみたい。今回、CMで「ウィスキーが、お好きでしょう」を歌っているのは誰だろう。もんたよしのり? そんなワケがない。調べると、ポルノグラフィティ岡野昭仁で、そういえば「アゲハ蝶」みたいな編曲になっている。

さて、「ウィスキーが、お好きでしょ」。
この曲はなんというか自分の中でボーダー上にあった。歌手でもないのに、この曲を歌う機会が与えられたら、どうしよう、と考えたりして。ある意味、「君が代」斉唱みたいなものだ。
長い間、勝手に歌い手の心境を想像しては、もやもやした気持ちで接していた「ウィスキーが、お好きでしょ」。ある日、田島貴男のライヴで、ノリノリで歌っているのを観て、一瞬でもやもやが吹っ飛んだ。田島貴男が歌えば、どんな曲でも許せる。愛せちゃう。そういえば、田島貴男は50メートル離れて観ると、SAKURAIと見間違うような気もする。いつか、「レッド・カーテン/オリジナル・ラヴ/ピチカート・ファイヴ/ソロ歌手」と物真似してほしい。想像してみたら、それも良さげではないか。
田島貴男のおかげで好きになった「ウィスキーが、お好きでしょ」。次は誰が歌うのだろう。バブル期だったら、レイ・チャールズに依頼したかもしれない。いっそ、サミー・デイヴィスJrとか。
いや、故人ばかり考えてどうする。現役歌手でこの曲を歌わせたい人を思いついた。
ボブ・ディラン。いかがでしょうか。
