闇雲
しのげ!退屈くん
文:安田謙一画:辻井タカヒロ

近田春夫の新著『未体験白書』(シンコー・ミュージック)はさまざまな要素で構成されている。
まずは、パンデミック期に書かれた未発表エッセイ70本にはじまる。そこから近田の半生に関わってきた人たちへの近田本人を交えたインタビューが並ぶ。長きに渡り近田との音楽ユニットLUNASUNの相棒を務めているOMBから、沖山優司(ビブラストーン)、窪田晴男(ビブラトーンズ)、の恒田義見と高木英一(ハルヲフォン)、竹田和夫(内田裕也の1815ロックンロール・バンド)……とバンド仲間たちに加えて、キャリアの初期に関わった(まま縁遠くなっていた)カルメン・マキ、「エレクトリック・ラブ・ストーリー」、「ああ、レディハリケーン」の作詞を手掛けた楳図かずお、近田が数多く手掛けてきたCMソングの現場で活躍したプロデューサー、渡辺秀文などキャリアをほぼ総括する面子。加えて、近田がインタビュアーに徹したキッス、チープ・トリック、J・ガイルズ・バンド、ブッカー・T・ジョーンズ、L.L.クール・Jらへのインタビュー集も組み込まれている。これぞバラエティ・ブックである。
「はじめに」から衝撃が走る。「根拠もなく永遠に続くと信じ込んでいた」週刊文春の連載『考えるヒット』が打ち切りとなったことへの動揺を吐露している。それがまず経済的な不安であることも隠さずに記している。おおよそ半世紀にわたって近田春夫のあれやこれや、を追いかけて来た私にとって、こんな風に弱音を吐く近田さんを見るのははじめてかもしれない。
79年の発売時に買った『気分は歌謡曲』(雄山閣)には圧倒的な影響を受けた。構造としてのロックンロール、歌謡曲などの捉え方、考え方、さらに語り口への影響は言うまでもない。それ以上に、その思考に寄り添うことで得られる「根拠のない、闇雲な自信」には今もお世話になっている。
その錯覚とともに「しのぎ」続けている私だから、先の弱気な発言にショックを受けた。が、そのネガティヴな状況をも、自身にとっての「未体験ゾーン」と解釈し、身辺雑記として綴ったのが冒頭に出てくる70本の未発表エッセイである。「13字×91行」という文字数は連載で書きなれたフォーマットだ。そして、書くこと、書くべきことを考えることで、余計なことを考えずに暮らすことの意義を知る。それは百パーセント、私にもあてはまることだ。ここに来て、近田春夫にこれほど力づけられることになるとは思わなかった。巻末の「近田春夫を作った洋楽100曲」にトドメを刺される。えげつない一冊です。

『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』はブルース・スプリングスティーンが代表作『ボーン・イン・ザ・USA』 と並行して、極めて内省的なアルバム『ネブラスカ』を作っていた時期の寄る辺ない心を描いた劇映画だ。余計なことを考えてしまいがちな音楽家がそれに抗う唯一の主題として自らの表現を突き詰めていく、ひとつひとつの過程を丁寧に描いた作品と解釈する。その先にある不安を爆音で表現するのが「スーサード」とは出来過ぎだ。しのいで、しのいで、しのいで、しのいで、しのいで、生きてまいりましょう。

