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セルフビルドの家 その一

セルフビルドの家 その一

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足りない「もの」を作る

滋賀県、琵琶湖をのぞむ比良山地のふもと。
このあたりにはセルフビルドの家が多い。

このあたりの地名、「比良」はアイヌ語や古語で崖地や急峻な斜面等を表す「ピラ」からきているという説が有力。大昔から人が行き来していた地域に残る、地形を表す言葉の一つのようだ。

今回、友人のTさんに個性的なお宅を何件か紹介してもらった。
Tさん自身もセルフビルドで家を建て、長年この地域に住んでいる。
美術作家をしていることもあってか、建築物だけでなく様々な創作物やクリエイティブな住人にも詳しい。
普段から近隣の散策をしているなかで出合った魅力的な家や家主のところへ案内してくれたのである。

木製の足場。重量感と迫力がすごい。必要以上に頑丈そうな部分や華奢すぎてヤバいところがありおかしな構造だが、そう簡単には壊れないようにも思う。

まず向かったのが、Mさんのお宅。コンクリートで出来ている。

元々ある住宅を覆い取り込むように鉄筋コンクリートの構造が作られ、上階に行くにつれて塔のような形になっている。高さは元の家の三倍以上はあるだろうか、規模がでかい。

家主のMさんは近年亡くなっており今は立ち入ることが出来ないが、こちらのお宅へは10年程前にも一度伺ったことがあった。当時まだ製作中だった建物内を解説付きでツアーしてもらったものだ。

使っていた滑車や一輪車、砂利の山がそのままだ。上階に運ぶだけでも相当な仕事量。

無造作に組まれた木製の足場が残る外観。
周囲の建物と比べ、見るからに異質な重厚感が漂う。

むき出しの鉄筋で半ば宙吊り状態の階段を上ると広い空間があり、いびつで巨大な柱が上階を支えていることに気づく。
構造に対する不安や重さの迫力、不規則な形の連続で平行感覚が狂う。
建築の知識を持たない小柄な老人が、単純な工具と人力のみで大量の砂利を運びセメントを練ってコツコツと作り進めたことを想像すると、気が遠くなる。

新聞紙などを詰めた袋で山を作りその上にコンクリートと鉄筋を這わせて固め、後で袋を抜く方法で空間を作っていたようだ。国内外で似たような空間の作り方は昔からあったようだが、知らず知らずのうちに知恵と工夫でこの工法にたどりついたらしい。

無機質な素材で作られた有機的な形。建物というより大きな粘土細工のようにもみえる。

荒々しいコンクリートの肌に覆われた洞窟のような狭い通路や小部屋を抜けて、上へ上へと進むと塔の展望スペースに出る。琵琶湖が一望でき、見晴らしがいい。

さらに上を作ろうとしていた形跡もあるが、上以外への増築の跡も建物のあちこちに残っている。いつ頃なぜ始めたのかはよくかわからず完成予想図があったとも思えないし、住居の延長ではあるが住むためだけの形でもない。

再訪時、敷地内には木やツタが茂り以前に比べ廃墟感が強くなっていたが、さすが鉄筋コンクリート造、形や質感はそう変わっていなかった。

「展望スペースからの眺め。見晴らしがいい。琵琶湖や山が一望できる。

誰かがどうにかしない限り数十年後も変わらず建っているだろう。
Tさんが「もう少し若ければ引き継いでやってもよかったけどな」と言っていたのが印象的だった。

(続く)