誠光社

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moving days -short cuts-

Scenery #2 2018 Winter 京都・高野にて

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moving days -short cuts-

引越し当日。小雨のち曇り。

この日は和井内洋介くんが10年住んだ団地の部屋を出る日だった。

4トンと2トンの引っ越し車が玄関前に待機していた。冷たく湿度高めの2月の空気。忙しなく荷物を運び出す青い人たちに挨拶しながら階段を上がった。

和井内くんがこの家を愛してやまなかったのは随分前から知っていた。何度かその暮らしぶりを撮影したこともあった。3DKの一室では夜な夜なグーグルストリートビューで世界を旅していることも。妻のミワちゃんと息子が可愛いことも。
なんで、出なきゃならないの。

しばらくとても悲しかった。だけど、仕方なかったんだ。家主さんが自分の息子にこの家を渡してやりたいって言うんだから。自分が同じ立場だったら、って思わずにいられなかったんだよね。
そんなふうに、話してくれた。

出ると決まったら進むのみ。冷蔵庫に残った最後の卵も、ベランダの湿ったパーカーも、10年分の家財道具もアリガトウもトラックいっぱいに詰めに詰め込んで、次の場所へと向かっていったのだった。徒歩1分もかからない、隣の棟のちょっと上の階へ。

あっという間に。