誠光社

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大森克己『山の音』刊行記念写真展

大森克己『山の音』刊行記念写真展

2022.11.16 ー 11.30

終了しました

はじめまして、写真家の大森克己です。このたび初めての文章だけの書籍『山の音』を上梓しました。
写真のすぐ隣にあった、写真にうつりにくいもののことを書きました。
本の出版を記念して、11月16日から30日まで、京都の誠光社さんで写真展を開催します。
関西では初めての発売イベントで、初日(13時〜19時ごろ予定)はずっと誠光社さんにいて、来店するみなさんをお迎えしようと思います。
お気軽にお声がけください。

素晴らしい小説や芸術に触れて「ほんとうに」感動してしまうっていうことは、前に進む力 を与えられるということなんだけれども、それって突き詰めて考えると、いま自分が間違った場所にいるということがわかるということで、実はとても怖いことでもある。
美しいということは残酷なことだということに気づき、世の中はまったく不公平で、魂の感度が上がれば上がるほど、どうしようもない哀しみに心も身体もノックアウトされる。センスのいい人間はとっくに自殺してるよな、とも思う。自殺を肯定するように聞こえるかもしれないが、自殺が良くないと考えるのは、いけしゃあしゃあと生き続けているボクたちの都合であっ て、ボクたちは自分の見たいものだけを見て、ほかのことは顧みずに生きている。
で、それがどうしたというわけでもなくやっぱり今日もボクたちは生きる。センス、悪いけど。久しぶりに素晴らしい小説に遭遇してそんな風に思った春の日。明日から税金も上がる。

(「ボクらはみんな生きている」大森克己『山の音』所収)

日曜日の夜8時。ある会で友人が自作の詩を朗読するのを聴く。多くの人が集まる大阪ミナミの繁華街から少し離れたカフェ。照明が暗くなり目を閉じて耳を澄ます。しばらくの間、彼女の発する言葉は発せられると同時に空中に消えていってしまい、意味や物語を捕まえようとするボクは少しもどかしい。けれども時間が経つにつれ、その場にいる20人ほどの人間たちの呼吸や衣ずれが耳に入ってきて、街の遠くから聴こえてくる二拍子の音楽のリズムとか、前の道路を行き交う人々の声と詩人の声が渾然一体となって、いまここを意味とか物語とかを超えた音の響きがうねりながら進んでいき、ボクもその一部になっていく。
窓の外でクルマのクラクションが大きく鳴ったその刹那、ボクは彼女が自身の故郷の話をしているのだということがわかり、彼女が発する言葉に波乗りするようにボクも自分の故郷のことを思い浮かべる。電車の先頭車両で運転士の後ろに流れて行く風景を眺めることがとても好きだったことや、団地のマーケットの前の公園の噴水に落ちてしまったこととかを。

(「朗読の時間」大森克己『山の音』所収)

  • 大森克己(おおもり・かつみ)

    写真家。1963年、神戸市生まれ。フランスのロックバンドMano Negraの中南米ツアーに同行して撮影・制作されたポートフォリオ『GOOD TRIPS, BAD TRIPS』で第9回写真新世紀優秀賞(ロバート・フランク、飯沢耕太郎選)を受賞。これまで発表した写真集に『サルサ・ガムテープ』『Cherryblossoms』(以上リトルモア)、『サナヨラ』(愛育社)、『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー)、『心眼 柳家権太楼』(平凡社)などがある。主な個展は〈すべては初めて起こる〉(ポーラミュージアムアネックス/2011)、〈sounds and things〉(MEM/2014)、〈山の音〉(MEM/2022)。参加グループ展に〈Gardens of the World〉(Rietberg Museum/2016)、〈語りの複数性〉(東京都公園通りギャラリー/2021)などがある。写真家としての作家活動に加えて『dancyu』『BRUTUS』『POPEYE』『花椿』などの雑誌やウェブマガジンでの仕事、数多くのミュージシャン、著名人のポートレート撮影、エッセイの執筆など、多岐に渡って活動している。『山の音』は初の文章のみの単著となる。

開催日
2022年11月16日(水) ー 11月30日(水)