誠光社

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絵の中のニットを編んでみる

絵の中のニットを編んでみる

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WADDLE YA PLAY?

Ruth Is Stranger Than Richard / Robert Wyatt  *Illustrations by Alfreda Benge

今回は、ロバート・ワイアットのアルバム「Ruth Is Stranger Than Richard」(1975)のジャケットの話です。 編み物を始めてだいぶ経ってからやっと気がついたのですが、ここにもニットが描かれていました。鳥の頭の男性が着ているカラフルなベストにはニット模様が描かれています。

物語のワンシーンの様な絵で、お洒落で変わり者の2人が暮らす森の家、といった背景です。ロープにずらりと掛かった洗濯物、ソファにチェア、火が焚かれたケトルからは湯気が昇っています。読みかけの本にアイロン台。室内そのもの、といった様子で生活の風景が描かれています。私は昔から生活とか、室内の様子が細かく描いてある物語や絵本の挿絵を見るのが好きでした。自分のそれとは様子が違っても、知っている気がする暮らしのムードをほのぼのと感じたり、壁に掛かったり棚に並べられたものを眺めているのがとにかく楽しくて、そのページ見たさに同じ本を繰り返し読んでばかりいました。絵の中にニットや編み物のシーンが描かれていたりすると、さらに想像は拡がって行きます。

HERBERT THE CHICKEN  Written by IVOR CUTLER Illustrated by ALFREDA BENGE (1984 WALKER BOOKS LONDON)

dondestan / Robert Wyatt  *Cover Painting by Alfreda Benge

ジャケットの絵を描いた画家は、アルフリーダ・ベンジ(愛称はアルフィー)。1940年生まれの画家です。ワイアットとは創作も人生も、ずっと共に過ごしているパートナー。1974年以降のアルバムのジャケットには、全てアルフィーの作品が使われています。

アルバム「dondestan」(1991)のジャケットの絵もアルフィーが描いた室内の2人です。スペインのホテルに滞在していた時の絵ということですが、ルームシューズを履いてくつろぐ2人と寝そべる猫2匹。テーブルにはワイングラスとフルーツのお皿、タバコに新聞。部屋の中にも浜辺にも明るいレモン色がたっぷりと塗られていて、夕陽が部屋いっぱいにも入っている様子が目に浮かびます。

アルフィーは、子供向けの本に挿絵も書いています。「THE HERBERT BOOKS」というシリーズの中の、ある朝突然ニワトリやゾウになってしまうハーバート少年の1日の物語にも少年の家の様子が出てきます。食器棚にきちんと並ぶお皿の模様、部屋のコンセントに猫の後ろ姿、独特の視線で室内が細かく描き込まれており、絵の具全部の色に光を混ぜたような明るいアルフィーの色調が独特で、童話と写真を同時に見ているような雰囲気です。

絵の中のベストは、正確な幾何学模様が色付きで描かれていて、ほとんど編み図と言ってもいいくらい。毛糸で編んでみたら、どんなニットになるのでしょうか。柄はフェアアイル・ニット(細かくカラフルな幾何学模様。スコットランドのフェア島発祥の古典柄)のようですが、フェアアイル・ニット用の細い糸で編んでいくと、模様が細かくなって絵と雰囲気が変わってしまいそうなので、絵のサイズ感で細くない糸で編んでいくことにします。

色の明るさや深さが合っていそうな糸を集めたら下から上まで、模様がわかる位の幅で試しに編んでいってみます。細かいことを気にしないようにしてとりあえずいっぺん最後まで通して編むという作業。編み上がりの長さは40センチ位です。このままベストにしても着られそうなサイズではありますが、模様はどうでしょうか? 単に目数を読違って模様が見えない部分があったり大きすぎたり、色使いが何だかボケていたりはしていますが、幾何学模様の辻褄はしっかりしていて、やっぱり編める模様が描かれていました。素晴らしい。もしこれをフェアアイル用の糸で編んだら、素材も色調も整っているので落ち着いているだろうし、模様も凝縮されて繰り返されると想像してみると、それはものすごい可愛いものになるであろうと思われます。

Swish!  Tea Cosy for 2cup  knitting by SWISH! 

この試し編みをコンビニに持って行き、現物を小さくコピーしていきます。それを原寸のジャケットと見比べてみて、簡単に粗探しをします。絵には黄色とオレンジが繰り返し出てきますが、ベタになりすぎないないよう要注意。想像していたよりも元気いっぱいのニットです。

絵ではなくて実物、それも毛ですから元気いっぱいにもなるはずです。上から下まで全色参上!という様な元気な色です。絵にあわせただけですが(そうか、70年代ってこんなに元気だったんだろうな…)とすら思ってしまいます。

Top (Wool/Alpaca)
Middle (Wool/Alpaca)
Bottom(Wool/Alpaca)

さて、この模様を使って何を編もうかという時、長さのある柄を生かせるマフラーにでもしようかと思っていました。が、編み地が分厚くなっているので身に着けるものよりも、ボリュームを生かすものが適しているようです。模様を縦に3分割にして「ティー・ポット・コージー」というものを編んでみました。

実は自分では使ったこともなく編んだこともなかったのですが…こういうものこそ、きちんと使うからこそ活きるものなんだと改めて思ったのでした。ティー・コージーについて、wikipediaを眺めると、 ”概要” という項目があって、 ”本来は茶を冷まさないようにするためのものだが、装飾を施すことで見た目にも賑やかしの機能を有した製品である” とあります。確かに仰る通り。賑やかしの点について言っても、このティー・コージーは3分割してもまだまだ賑やかで気元気です。お茶の時間に元気になることも良いと思います。