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クマ少年 ルパート

クマ少年 ルパート

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WADDLE YA PLAY?

チームの司令塔ルパート(Wool/Navy Blue)

クマのルパートは、1920年イギリス生まれのイギリス育ち、「デイリー・エクスプレス」というタブロイド誌のコミック・ストリップの主人公です。永遠の少年ですが、その歴史は100年を超える、れっきとしたアンティークでもあるキャラクターです。日本ではほぼキャラクター展開されていないのですが、きっとどこかで見たことがある方は少なくないはず。90年代のデザイナーズ・ブランド、ATSUKI ONISHIのボーイズの名前が「RUPERT」だったのは、このルパートもイメージのひとつだったのではないでしょうか。

MORE RUPERT ADVENTURES/THE DAILY EXPRESS ANNUAL(Alfred Bestall)

原作者メアリー・タートルの後、1935年から40年近くの間のルパートを引き継いだのが風刺漫画雑誌「パンチ」などで挿画家をしていたアルフレッド・ベストール。彼が創作したルパートの世界は偉大です。幼少時をルパートと過ごしたポール・マッカートニーは、ビートルズ脱退後の初事業に映画化権を取得。短編映像やテーマソングの製作で共演を果たしています。モンティ・パイソンのメンバーのテリー・ジョーンズも、ドキュメンタリー・フィルム「Rupert Bear Documentary(1982)」を製作してどれほどベストールが素晴らしいか、ルパートとベストールについて愛情に満ちた考察を熱く語っています。YouTubeでも観ることができ、漫画も何度も登場、ルパートの世界が存分に楽しめるでしょう。

さてパディントンやプーが二足で歩く、のっそり系で一応は服を着ているクマだとすると、ルパートはほぼ少年の人型グマです。いつも赤いシャツ、黄色い格子柄のズボン、それと同じマフラーを巻き、革靴を履いています。さっぱりした顔つきなのですが、人型だからか妙に存在感があります。

左 *5Knitting patterns BY GARY KENNEDY(INTARSIA) 上 *RUPERT BEAR SWEATER 15026 (Robin)下 *The RUPERT AND FRIENDS Knitting book(Wendy)

あれこれ編み図を遡っている中で、キャラクターの中にルパートも見つけるようになりました。編み図はもちろん静止画ですが、ルパートはどれも、何か気になる。変わったポーズをしているわけではないのですが、動感の気配が妙にあるのです。手脚の長さがしっかりとあるし、オリジナルの作画に忠実に再現できていて、というのもあるでしょうが、そもそもこのモチベーションみたいなものは一体何だろう?落ち着いた知育系のキャラクターとばかり思っていたルパート、本当はやんちゃ系なのだろうか?ニットでこれなら、本物はどれだけ機動力の高いクマなのか? 服の中でいきいきしているのは「ど根性ガエル」のピョン吉みたいじゃないか?などなど、小さな疑問がふつふつと湧いてきて、一回編んでみなくてはという自分発自分行きの使命感があったのでした。

駆けてくるルパート(Wool/Lake Blue)

ルパートはイギリスのどこかにあるナットウッドという村の家で、両親と一緒に暮らしています。元気いっぱい毎日遊びという冒険に出かけます。ルパートの友人は同じく人型のたぬき、象、豚、ペキニーズ、モルモット…の少年たち。ここでは人間たちも、ペットのような小さな生き物も、隔てなく暮らしています。彼らは近所の原っぱから森や小川を駆け回り、冬は雪あそび、夏が来れば鉄道に乗って海へバカンスへ行ったりと、田園の生活を満喫しています。物語は人と動物の世界だけにとどまらず、伝承の中の生き物も登場しておとぎ話のような展開になります。ルパートとトロール、ルパートと人魚、巨人、ハンプティ・ダンプティ、お人形さん、折り紙動物……ある時は怪鳥の背中に乗って鳥の王国に出向き、ある時は村のおばあさんのペット(お猿)を助けに行って悪漢に捕まったりもします。またある時は、ドラゴンにさらわれたり、ペガサスに飛び乗ったり、「待て待て」と言いたくなるような、小さくても大きすぎる展開が次々拡がっていきますが、まるで小さい子どもが話す「知ってるものが全部出てくる」物語のようです。空想が縦横無尽に動くような世界の中で、ルパートは持ち前の機知と行動力で模範的に事例をきちんと解決、すべての冒険を牧歌的に終えます。日が暮れるときちんとお家に帰り、きちんと家族でご飯を食べ、ベッドできちんと寝る。やはりこれも、ゆきてかえりしイングリッシュ・ボーイズ・ダイアリーのようです。彼の恒常的な小忙しぶりには少し笑ってしまいますが、こんなルパートならセーターに編み込まれても、収まりきらない元気があるだろうと納得しました。

ライフ・イズ・ジョイのルパート(Wool/Limestone)

今回は3つの編み図を編んでみました。ルパートはいつでも動いています。動くルパートを、たまたまこの瞬間に捉えただけ、そんな感じです。マフラーはいつでも、何処からの風を受けてはためいています。