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ニッティング・ミステリー

ニッティング・ミステリー

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WADDLE YA PLAY?

Knitting Yutanpo Cover (Wool, Alpaca )

編み物をしながらミステリーのシリーズをよく見ています。初見は矢継ぎ早に変わる展開や、酔狂な設定を見逃すまいと目が離せないので、つい手が止まってしまいますが、有名な探偵や刑事が登場するシリーズは何度も見ているので、見たり見なかったりしつつ作業を続けることができます。

寒い国、寒い時期の設定だったりすれば当然ニットの衣装や小物が出てくるので、ニットを気にしながら見るのも愉しみのひとつ。可愛いのも可愛くないのも、わざわざそのニットを着せるこの人物にはどんな設定があるのかなと考えながら編んでいたりします。なんならニット使いの良し悪しがドラマの評価のひとつになっていたりも。

編む人なら誰もが触れずにはいられない有名ミステリー小説が、ご存知、横溝正史の「女王蜂」(1952)です。小説の中に編み図(模様編みを記号で図案化したもの)が掲載されている珍しさには、つい過剰に反応してしまいます。

「彼女の頭のなかにはどんな時でも、編物の符号が電光ニュースのように、しずかに、音もなくすべっているのでる。ーーかけ目、伏せ目、表、表、表、二目一度、表、かけ目、伏せ目、かけめ、表、表、表、二目一度。かけ目、表。……」(「女王蜂」より)

符号(編み物の記号)の反復が恐怖を演出するように使われ、編み物する人の脳内にしか見えないようなイメージが描かれます。横溝正史が本格的に複雑な模様編みまで編み物をしたというのは、有名なエピソード。横溝正史記念館には、お嬢さんのために編んだというニットが所蔵されています。襟まわりには花の刺繍もついて白くて可愛らしいセーターなのですが、気になるのがその編み方。

手編みのような説明が書き添えられてはいますが、まるで機械編みのような精密なテンションの編み目の連続です。私には何編みをしたものなのか見当もつかずで見ても見ても頭はハテナだらけ、ミステリーそのままの、横溝正史まさかのハンドメイドニット。手で編んだものには確実に編み手のセンスが残るものです。完成度の高いこの一点をネットで見るだけですが、複雑な編み物をする横溝正史を想像してなかなか興味深いものがあります。

映像化された「女王蜂」の編み物といえば、市川崑監督の1978年版です。事件の真相は符号に従って編み物をしてみないとたどり着けません。原作の金田一は人に編んでもらいますが、映画では器用な金田一が自分で編んでしまいます。そこで私たちは(石坂浩二の)金田一耕助が薄暗い畳の部屋でひとり静かに編み物をするというファンタジックな謎解きシーンを目にします。岸恵子が演じる神尾秀子は、編み物依存症の旧家の家庭教師。いつも何かを編んでいますが、それがフランスからやってきて超絶クールな岸恵子には少し意外な可愛いピンクの毛糸のガーター編みだったりするのです。横溝正史の世界ですので、昼も夜も不穏な事がありすぎるくらいに起こり続けるわけですが、そのカオスの中でもシナリオは編み物を端折ることなく、むしろ原作以上に織り込んでいいるのです。エピローグでは転がる毛糸玉にカメラが寄るシーンなどもちゃんとあって、ニッターの心をささやかに熱く躍らせてくれるでしょう。

今回はその「女王蜂」小説でも映画でも大活躍した「神尾先生の編み物袋」をカバーしました。編み物袋とは編みかけの一式を入れておく袋で、隙あらば編む人が使う移動袋でもあります。神尾先生がこれもきっと半端な糸を使って作ったのだろうという感じのパッチワークの袋ですが、赤や青の発色が昭和を感じる鮮やかさでこれもやっぱり可愛いのです。編み物袋はちゃんとお役目があって登場しますが、成り行きの大事を背負わされて災難でもありましたが、ここでは、善く長く使える湯たんぽ袋を編んでみました。