誠光社

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サイモン・スミスとアメイジン・ダンシン・ベア

サイモン・スミスとアメイジン・ダンシン・ベア

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いいなアメリカ ジョンとポールが歌うランディ・ニューマン

明日にゃ出掛けるよ
いけるか?貸衣装で
かしこまったスタイルと
紳士のスマイルとマイ・ダンシン・ベア

さあ怪奇 にご注意?
そう勇気 でチャーミン!

おお 誰が知るか 僕とベアとが
歓迎されるにゃどこへ?
もぅこいつぁアメイジン 上品なお方に

やぁ あったいい場所
食通さん達も立ち止まる
豪勢なエントランスには
「サイモン・スミスとマイ・ダンシン・ベア」

ウケけるか スベるか?
食えるか 飢えるか?

おお 誰が知るか 僕とベアとが
歓迎されるにゃどこへ?
もぅこいつぁアメイジン 上品なお方に

さあ見るにゃ マニー
でも見りゃ ファニー!

もう大評判さどこも
そりゃ「サイモン・スミスとダンシン・ベア」
さぁ!「サイモン・スミスと
”アメイジン” ダンシン・ベア」

──ウィン・ベリーとアメイジン・ライディン・ベア──

 若い男と踊る熊という、この歌の珍しい設定は我々日本人には多少、童話めいて映るかもしれない。アニメ「トムとジェリー」にもサーカスから逃げた「踊る熊」が出てくる話があるが、そのようなメルヘンチックなイメージもきっと悪くない。しかし、私はもう少し写実的に、具体的に、鮮明に、カラフルに、若い男と熊をイメージすることができる。

トムとジェリー「ダンスは楽し」より。英語のタイトルは「Down Beat Bear」

 先日、約30年ぶりに映画「ホテル・ニューハンプシャー」を観た。この歌「サイモン・スミスとアメイジン・ダンシン・ベア」を訳した際、私は真っ先にこの映画のことを思い出したのであった。

映画「ホテル・ニュー・ハンプシャー」初版ポスター

 映画のオープニング。家族を集め、父の思い出話が始まる・・・戦前のアメリカ、夏のバカンスシーズン、美しい芝生の上に建つ美しいホテルで、若き日の父、ウィン・ベリーはアルバイトをしている。そんなある日、ホテルに大道芸人が熊をサイドカーに乗せてやって来る。熊は「メイン州」という不思議な名前と、単独でオートバイに乗る芸を持っていた。仕事を通じてウィン・ベリーは大道芸人と信頼を深めるが、とある事件からホテルの仕事をクビになってしまった大道芸人は、ヨーロッパに渡るためにウィン・ベリーにメイン州を託す。サイドカー付きオートバイと共に・・・

バイクに乗るお調子者メイン州。右が大道芸人のフロイト、左がウィン・ベリー

 かくして出会った、このふたり(ウィン・ベリーとメイン州)の初々しい大道芸の様子は、残念ながら映画には描かれていない。しかし、この歌「サイモン・スミスとアメイジン・ダンシン・ベア」の舞台設定、オールドタイムな曲調など、映画の背景ともうまい具合に調和して、私の中のサイモン・スミスとダンシン・ベアは映画に描かれなかった、若き日のウィン・ベリーとメイン州のその後の物語のように聴こえてしまうのである。

ウィン・ベリーにケーキを食べさせてもらうメイン州。左はウィンの妻となるメアリー。二人とも高校生には見えないかもしれないが、長い物語を同じ俳優が演じる都合上やむを得ない

 こう書き進めているだけで、顔がほころんでしまうほど、私は今、この愛らしいイメージに酔いしれている。詩や物語を読むとき、脳裏に描かれるイメージは、今までに体験した全ての映像経験──映画に限らず、子供の時見た昆虫から、昨日の夕焼けまで──から選ばれ、新たに結ばれる。美しく愉快な映像経験を豊富に持つ人であれば、その分多く、脳裏のスクリーンに美しく愉快なムービーがかかるであろう。だとすれば、美しく愉快な映画には実在以上の価値がある。私がホラー映画が苦手な理由も同様。正直申せば、観たあとが怖い。

 昔は心が痛むような映画も苦手であったが、最近は少し変わって来た。映画は必ずしも愉快でなくても良い。ホラー映画も大いに結構!だが、しかし映像はいつも美しくあって欲しいと私は思う。

ヨーロッパの「ダンシング・ベア」

補足:日本には猿回し。インドには蛇使い。ではアメリカに熊使いは果たして多くいたのであろうか。調べると難なく分かった。熊使いは昔、インド、中東、ロシア、ヨーロッパ、世界中でメジャーな大道芸であった。アメリカにはヨーロッパから渡ってきたのであろう。ヨーロッパでは主に音楽にあわせて熊が踊る大道芸が行われていた。英語で「ダンシング・ベア」と呼んだそうである。なんと!