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ルイジアナ 一九二七

ルイジアナ 一九二七

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いいなアメリカ ジョンとポールが歌うランディ・ニューマン

普段聴き逃しがちな洋楽の「言葉」にスポットをあて、ニュアンスごと翻訳し歌うアーティスト「ジョンとポール」がランディ・ニューマンの世界を実演つきで紹介します。

ミシシッピ河大洪水。発生日1927年4月15日。7つの州で246人が死亡、被害総額4億円以上。
ワッツハプン 何が? まず風が
北方徐々に雲が 次いで雨が
これがえらい豪雨に しかも降り続いて
六尺※1の水が通りまでエヴァンジェリン※2

ひねもすオールデイ かさを増すオールナイ
あっちじゃ行方知れず こっちゃ逃げ無事オーライ
河は決壊だ もうそこまでプラークミン※3
六尺の水が通りまでエヴァンジェリン

ルイジアナ ルイジアナ
洗い清めようとしてる 洗い清めようとしてる
ルイジアナ ルイジアナ
洗い清めようとしてる 洗い清めようとしてる

プレジデント・クーリッジ※4視察団が鉄道で
ちびデブ書記官 手にノートぱっと広げ
プレジデント「ちびデブ書記官 残念だね
一体何故なんだい? こんな貧乏な土地へ」

ルイジアナ ルイジアナ
洗い清めようとしてる 洗い清めようとしてる
ルイジアナ ルイジアナ
洗い清めようとしてる 洗い清めようとしてる
洗い清めようとしてる 洗い清めようとしてる

ミシシッピ河大洪水は1927年に起こった。アメリカ合衆国史上最大の被害を出した洪水である。

 ミシシッピ河はその後も何度か氾濫を起こしている。我が国でも近年毎年のように各地で災害が発生し、これを書いているたった今も、最大級の警戒警報が中国地方に発表された。熱海市では行方不明者の捜索活動が依然続けられ、一方ここ広島では3年前の西日本豪雨の追悼式が各地で催され、目の前のTVは災害報道一色である。

 そんな中での『ルイジアナ 一九二七』が今の私にはまるでニュースのように響く。はじまりの部分は、気象庁による分析的な気象状況の解説。続く二番目の部分は現地に飛んだキャスターからの生々しい被害状況の報告。犠牲者に対する祈りのゴスペルコーラスを挟み、政府による現地視察の模様が、政治部キャスターによってやや否定的に報道され、大統領による「貧乏な土地」発言が今後波紋を呼びそうである。再びコーラスのリフレインにて番組は終了。と、こんな具合に。

カルビン・クーリッジ大統領
カルビン・クーリッジ大統領。無口で「寡黙なカル」と呼ばれた。失言はニューマンの創作であろうか。

 事件や事故の情報を歌によって人々に知らせる、ニュースとしての歌。現在の我々には耳慣れないスタイルであり、それゆえこの歌は興味をそそるのだが、実はアメリカの古いブルースやフォーク・ミュージックには、元々そういう役割があり、実際に起こった事件や事故を歌詞として取り扱った例は枚挙にいとまがない。一例を挙げれば、同じく1972年のミシシッピ河大洪水を歌ったチャーリー・パットンの「ハイ・ウォーター・エヴリホエア」など有名だ。

チャーリー・パットン
チャーリー・パットン。通称「デルタの声」。小柄で細身だが、声はマイクなしで500ヤード(450m)先まで届いたという。

 日本でも明治時代までは、世間を騒がせた大災害に大事件、政治批判から猟奇殺人、果ては流行のファッションに至るまで、まるで新聞や雑誌のような話題こそ、当時の流行歌の主要なテーマであった。

アルバム「歌と音でつづる明治」
アルバム「歌と音でつづる明治」。明治時代の流行歌をはじめ、軍歌、物売りの呼び声まで入った、解説も分厚い2LP。

しかし、私の知る限り(あまり多くは知らないが)何よりもそのジャーナリスティックな批判精神から、抜きん出てニュースとしてのリアリティを持っていたと思われるのは、カリブ海に浮かぶトリニダード島で生まれた「カリプソ」であろう。その歌詞は、島民がもっとも信頼を寄せる大切な情報源であったという。例えばカリプソの名曲『ルーズベルト・イン・トリニダード』(拙作『ENGLISH-JAPANESE』に翻訳バージョンがございます)であるが、その内容は、ルーズベルト大統領がトリニダード島を来訪した際の、国のお祭りムードの大歓迎、その一部始終をジャーナリスティックに描いた、まさにニュースのような歌であった。

こういう歌は、うそみたいにみんな消えてしまった。ニューマンはこうして、誰も顧みなくなった歌のスタイルを愛情を持って拾い上げ、彼ならではの批判精神を新たに注ぎ込み、斬新で普遍的な歌に仕立て直した。私は常々思う、実はこういった「温故知新」にこそニューマンの歌の魅力の核心があるのではなかろうか?

アルバム『ENGLISH-JAPANESE』ジョンとポール
アルバム『ENGLISH-JAPANESE』ジョンとポール。『ルーズベルト・イン・トリニダード』に加えニューマンの歌を3曲も収録。