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奇妙な孤島の物語

奇妙な孤島の物語

大陸から見れば海の果てにありながら、その島に立てばそこは世界の中心である。ユートピア思想が持ち込まれることもあれば、罪人が辿り着く流刑地となることもあり、他のどの土地にも見られない新種の植物や昆虫が見つかる一方で、疫病で島の生物が全滅してしまうこともある。つまり孤島とは世界そのものの縮図である。しかし、大陸のように多様な文化は存在せず、長大な歴史もないゆえに、孤島の歴史を語ることはつまり部分的に世界を語ること、すなわちその物語は限りなくフィクションに近い手触りを持つことになる。『奇妙な孤島の物語』に収録された50もの島々の物語はまるで優れた短編小説のような趣がある。

フランスのとある小さな町で6歳になるリブランという男の子が繰り返し同じ夢を見た。どこのものかわからない言語を誰かから教わる夢で、そのうち少年は夢の中だけでなく、目が覚めてからもその言葉を操れるようになる。年齢を重ね、世捨て人のように暮らすようになった彼の話に注目した研究者が、数年がかりでその言葉を解析するも成果が出ない。研究方法を分析からフィールドワークへと変え、酒場で船乗りたちにその言葉に聞き覚えがないか調査を続けた。そのうち海軍出身の男がポリネシアの孤島でその昔耳にしことがあると名乗り出る。同じ言葉を使う女性を連れてきたところ、リブランの挨拶に何食わぬ顔をして同じ言語で応えた。リブランは彼女と結婚し、その言葉が使われている南太平洋フランス領ポリネシアのラパ・イティ島に移住したという。

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旧東ドイツで幼少時代をすごした著者にとって、地図をながめ空想に耽ることは旅そのものと同義であった。実在しようがしまいが、旅行することすら困難な環境に育った少女には、遥か彼方の会場に浮かぶ島など物語の中の存在同様だ。本書で紹介される島々での出来事がよくできたフィクションのように読めるのは、孤島のような東ドイツで、古い地図を前に想像力を膨らませ続けた著者のフィルターがあってこそのことだ。

作家でありながらブックデザイナーでもある著者が、地図のデザインから装丁まですべてを手がけた本書の成り立ち自体も、孤島と相似形をなしている。「もっとも美しいドイツの本」賞を受賞した原初の美しさを損なわぬ邦訳版が刊行された。「無人島に持っていきたい本」というお題に対して誰かが本書を紹介するのも時間の問題だろう。

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