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新宮晋の絵本世界

新宮晋の絵本世界

先月、大阪九条の「シネ・ヌーヴォ」で、「風の彫刻家」新宮晋の活動を追ったドキュメンタリー映画『ブリージング・アース』を観た。世界的な評価を受ける新宮晋の作品は、一見カルダーのモビールのバリエーションのようだが、「環境を取り入れる」という要素によって決定的に違うものになっている。抽象画を3次元に移行し、そこに時間の概念までを取り入れたカルダーのモビールに加え、新宮晋の作品は、環境に左右され、環境を生み出す。

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風を利用した作品の多くは海辺や池の上に設置され、風景との調和が前提に考えられる。水を撒き散らすオブジェの下には子供たちが集まり、水遊びができるスペースが用意される。当然、設置環境を探すことが作品制作の一部となり、それは環境自体を生み出すという考えにまで発展する。映画は、新宮のオブジェによる風力発電で自給自足を実現する村、「ブリージング・アース」の立地とスポンサー探しが柱となっていた。

そもそも新宮晋の存在を絵本作家として知った。文化出版局から刊行された正方形に近い、同じフォーマットの連作絵本は、ロングセラーとして40年近くも版を重ね続けている。その最初期作品の一つ『いちご』は、いちごの成長を描くだけだが、ありとあらゆる視点の実験がなされている。いちごの視点で見た一面の星空、見開きグレー1色でいちごの香りが漂う夕暮れ時を表し、いちごを宇宙に浮かぶ地球に模して描く。『くも』では、トレーシングペーパーを重ね、同じ蜘蛛の巣を同じ視点から見ながら状態の変化を描き、時間の概念を読者に与えてくれる。

新宮晋の活動を、ブルーノ・ムナーリと重ねて見る人も多いだろう。一見カルダーに似ながら本質が異なるオブジェは「役に立たない機械」(ブルーノ・ムナーリの初期作品)のようだし、ムナーリも正方形のフォーマットにこだわり絵本や知育玩具を世に送り出した。知育に力を注いだところも共通点だ。 1960年代にイタリア留学をしているそのキャリアから直接的な影響も少なくはないはずだ。「日本のムナーリ」という表現は乱暴で好まないが、ブルーノ・ムナーリの作品がこれだけひろく親しまれているのであれば、新宮晋の絵本も同じように評価されてしかるべきではないだろうか。

  • 《誠光社の本棚から》「新宮晋の絵本」
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