誠光社 SEIKOSHA

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ブログ 何を読んでも何かを思い出す

『光る風』三たび

『光る風』三たび

山上たつひこの傑作『光る風』の古い文庫版が入荷したので久々に読み返してみた。同書との出会いは1997年。ちくま文庫のラインナップとして再刊行された際、当時アルバイトとして勤務していた恵文社の先輩に「これは絶対読んどいた方がいいよ」と薦められ手に取った(当時はレジのなかで本の話ばかりしていた)のが最初だった。当時は「『がきデカ』の著者がこんなシリアスな作品を書いていたのか」程度の感想だったが、10年ほど後に古書店で朝日ソノラマ版を買い直し読んだ際にはその預言的内容に戦慄した覚えがある。

そしてそれからさらに10年近い時を経て再読してみれば、預言どころか、現実が同書に寄り添うかのごとく足並みを揃えつつあることに衝撃を受けた。

作品の舞台となる時代背景は伏せられているが、明らかに同書執筆時の近未来を想定して描かれている。つまり高度経済成長がピークに達し、学生運動は挫折、産業の発達に伴う公害などの諸問題が表面化し、バラ色の未来が色あせはじめた1970年代初頭。東北地方に存在する、原因不明の奇病を患った人間たちが隔離される出島。そのドキュメンタリーフィルムを撮影せんとし、リサーチに出かけた教師と教え子たちが次々と不可思議な形で逮捕拘束され、言いがかりのような理由で警官に射殺されてしまう。不可解な法案(憲法に違反せずに軍事力を行使できる「国連協力法案」)が可決され、反体制運動は圧殺、軍靴の響きが高鳴る中、元軍人の親を持つ主人公は出島のレジスタンスたちと交わり、運命の荒波に押し流されてゆく。

過去、現在、未来・・・

この言葉はおもしろい

どのように並べかえても

その意味合いは

少しもかわることはないのだ

というエピグラフが何を意味するのか、本書があながちディストピア漫画ではなくなりつつある今だからこそ理解できるだろう。本作が学生運動の参加者たちに熱く支持された『あしたのジョー』連載時の『週刊少年マガジン』に掲載されていたことを思うと、その毒の強さは計り知れないものがあったはずだ。

本作の内容は過去でもあり、現在でも未来でもある。天才にしか書くことのできない預言の書であり、その衝撃は今なお衰えることがない。2008年に小学館クリエイティブより、今年の春にフリースタイルより一巻本として繰り返し再刊されているので、関心のある方はいずれかを手にとって読んでほしい。

  • 光る風 1・2巻セット
  • 光る風 1・2巻セット ¥2160(税込) 通信販売ページへ
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